映画「クライムズ・オブ・ザ・フューチャー」ネタバレあらすじ結末と感想

クライムズ・オブ・ザ・フューチャーの紹介:2023年カナダ, ギリシャ映画。80歳になった鬼才デヴィッド・クローネンバーグ監督の新作。2022年カンヌ国際映画祭に出品された本作は、退場者が続出するなど賛否両論を巻き起こした。
人間が痛みを感じなくなった近未来。体内で作り出される新たな臓器を取り出す手術をアートパフォーマンスとしてみせる男ソールをヴィゴ・モーテンセン、そのパートナーの外科医カプリースをレア・セドゥが演じる。『スペンサー ダイアナの決意』でダイアナ元皇太子妃を演じたクリステン・スチュワートが彼らを監視する役で出演している。
監督:デヴィッド・クローネンバーグ 出演:ウィゴ・モーテンセン(ソール・テンサー)、レア・セドゥ(カプリース)、クリステン・スチュワート(ティムリン)、ドン・マッケラー(ウィペット)、スコット・スピードマン(ラング・ドートリス)、ヴェルゲット・ブンゲ(コープ刑事)、ヨルゴス・ピルパソプロス(ドクター・ナサティール)、リヒ・コノルフスキー(ジュナ)、ソトス・ソリティス(ブレッケン)、タナヤ・ビーティ、ソティリス・ショーゾスほか

映画「クライムズ・オブ・ザ・フューチャー」解説

この解説記事には映画「クライムズ・オブ・ザ・フューチャー」のネタバレが含まれます。あらすじを結末まで解説していますので映画鑑賞前の方は閲覧をご遠慮ください。

海辺でひとりの少年が遊んでいます。家からは母親のジュナが「ブレッケン、何を見つけても食べないで」と声を掛けます。

夜、洗面所でブレッケンはプラスチックのゴミ箱を抱え、かじって食べています。そしてその夜中、ジュナはスヤスヤ眠るブレッケンの顔に枕を押し当て窒息死させてしまいます。彼女は別れた夫に電話をし、遺体を置いて姿を消します。暗闇の中やってきた元夫のラングは遺体を見て「俺の息子…」と泣くのでした。

天井から吊り下げられ生き物のように蠢くベッド(オーキッドベッド)で寝ているのはソール・テンサー、そして窓を開けて彼を起こすのはカプリースです。ソールは体内で新たな臓器が生み出してしまう〝加速進化症候群〟という病気を患っています。カプリースはその臓器にタトゥーを施して切除し、ふたりはそれをアートパフォーマンスとして公開し人気を博しています。

摂食や嚥下に問題のあるソールは、ブレックファーストチェアと呼ばれる人間の身体の状況に合わせて食事をサポートするイスに座って食事をしていますがなかなかうまくいきません。ベッドもイスも〝ライフフォーム・ウェア〟という会社の製品で、調整が必要だとソールは少し不機嫌そうです。

その夜、ふたりは政府の機関である「臓器登録所」を訪れます。そこは〝ニューバイスユニット〟と呼ばれる警察組織の一部ですがまだ非公式な存在です。所長のウィペットと職員のティムリンはカリスマアーティストのソールに会えて興奮気味。ウィペットは「人類はなぜ痛みという警告システムを失ってしまったのだろう」と話します。

ソールとの関係をたずねられたカプリースは、かつてソールの手術を執刀した外科医で今はパフォーマンスのパートナーだと答えます。いよいよ臓器の登録をすることになり、ウィペットとティムリンはチューブカメラをソールの胴体に突き刺し、中の臓器を感激しながら見ています。その様子をカプリースが指輪型の小型カメラで録画していますが、気づいたふたりに止められてしまいました。

後日、ソールのもとにライフフォーム・ウェアの女性ふたり、バーストとルーターが調整にやってきました。ソールの家にライフフォーム・ウェアの初期の製品〝サーク〟があると知ったふたりは、自分たちも見たことがない伝説の品だと興奮しています。

いよいよサークを使った公開手術の日。ソールは既にサークの中に入っており、ドレスアップしたカプリースの胸の下には柔らかい亀の甲羅のようなサークの操作リモコンが付いています。会場には多くの観客に混じってウィペットとティムリン、バーストとルーター、そしてラングの姿もあります。カプリースはエロティックな動きでリモコンに触れ、サークのアームを操作します。ソールの腹部は開かれ、中から美しいタトゥーが施された臓器が姿を現します。手術中、ソールは恍惚の表情を浮かべ、その姿にティムリンは感銘を受けます。

術後のパーティでティムリンはウィペットの制止も聞かずソールに近づき、「あの手術はセックスですね。新しいセックス」と自身の感動を伝えます。カプリースは不快感を示しますが、ソールは「アートの勝利」だとほほ笑みます。
会場の隅でラングは自分で持ち込んだ紫色のチョコレートバーのようなものを食べ、カウンターに置きっぱなしにします。それを口にした別の男性客が突然苦しみだし、口から青い液体を吹いて倒れてしまいました。

臓器登録所にニューバイスの刑事コープがやってきます。彼ら、特にコープは人類の進化に挑戦するようなアートがもてはやされる風潮を嫌い取り締まる立場ですが、直接アーティストに接触するウィペットとティムリンはその魅力に取りつかれてしまっているようです。コープはソールについて、単なる臓器提供者では?と疑問を投げかけますが、ティムリンは「彼の意思が大事」だと力説します。

ソールが潜入したとあるパフォーマンス会場。全身にたくさんの耳が付いた男が目と口を縫い付けられ前衛的なダンスを踊っています。ソールがその様子を見ているとひとりの女性が声をかけてきました。彼女はある人に会うべきだと言って1枚の名刺を手渡します。

その帰り道、ソールに気づいたラングが追いかけてきました。そして提案があると言って自分の息子の遺体をショーで解剖してほしいと頼み込んできました。

翌朝、喉の調子の悪いソール。彼は昨夜のことをカプリースに話します。解剖のためにサークを調整しないと、と言ってカプリースがサークに入りソールがアームを操作します。アームはカプリースの肌に傷をつけ、赤い血がにじみ出てきますが本人はうっとりとした表情を浮かべています。

夜。人目を忍んでソールはコープと会っています。実はソールはニューバイスの捜査に協力しており、スパイとしてコープに状況を報告しているのです。ソールは女性に紹介されたナサティル博士について調べるよう依頼し、またブレッケンを殺した罪で警察に捕まっているラングの元妻ジュナに会わせてほしいと頼みます。

ひとりでナサティル博士に会いにいったソールは、カリスマに会えてテンションの上がったナサティルに、彼の開発したリップロックという機械で腹部に〝窓〟を開けてもらいます。帰宅途中、路上でカプリースが待っていました。ソールが腹の傷を見せると、彼女はまるでジッパーのように指でその傷を開いていき、そこに口を近づけ愛撫します。ソールは戸惑いながらも身を任せるのでした。

ソールはジュナに面会します。ジュナは息子を〝クリーチャー〟だと言い、口から出した白い液体でプラスチックを溶かして食べていたと話します。元夫のラングが仲間たちとプラスチックを食べることができる消化器官を手に入れ、それが息子のブレッケンに遺伝したのだとジュナは考えています。

実際、ラングたちは自分たちしか食べることができないチョコレートバーのようなものを作業場で作っていました。彼は解剖ショーの後、当局に追及されないよう作業場を移すことを仲間のターに指示します。

カプリースはひとりで、友人オディールのパフォーマンスを見に来ています。オディールはその美しい顔に多くの傷をつけるパフォーマンスを披露し、刺激を受けたカプリースは自分もやってみたいと持ち掛けます。

その夜、帰宅したカプリースの額には点線と、勾玉を埋め込んだような複数の突起が付いていました。彼女は興奮気味に次の解剖ショーは臓器切除ショーといっしょにやりたいと提案しますが、ソールは臓器が育っていないことを理由に乗り気ではない様子です。

臓器登録所にやってきたソールは、ウィペットから「内なる美コンテスト」を主催していると打ち明けられますが、ソールに出場してほしいのかどうか彼の態度ははっきりしません。ソールが帰ろうとすると今度はティムリンが自分のオフィスに彼を引き込み、ウィペットの暴走が心配だと相談してきました。

しかしティムリン自身もソールに惹きつけられており、サークに入ってソールの手術を受けたいと言い出します。困惑してたしなめるソールの顔に手を伸ばし、口内に指を入れ、その指をなめるティムリン。そのままふたりはキスをしますが、積極的なティムリンに対しソールは「古風なセックスは苦手」だと言って去っていきます。

カプリースとともにラングの部屋を訪れたソール。ブレッケンの遺体を見てカプリースは「(解剖)できない!」と目を背けますが、悩んだ末にふたりは公開解剖を承諾します。ラングはこれが摂食や食糧の問題を解決し、人類の進化のためになると誇らしげに話します。

その夜、コープと密会したソールは、ラングの息子の遺体を解剖することになったと伝えます。コープはラングたちが作っている紫色のチョコバーが有害物質で、それを食べた捜査員が死んだと伝えます。そして「人間じゃないものに進化している。そのままにしておけない」と言い切るのでした。

ブレックファーストチェアで朝食を食べていたナサティル博士の部屋に、ライフフォーム・ウェアのバーストとルーターがやってきます。メンテナンスに来たという彼女たちが帰ったあと、チェアにはナサティル博士の遺体が座っていました。

いよいよ解剖ショー当日。「ブレッケンは神の子」だと信じているラングが固唾をのんで見守っています。そこにはもちろんウィペットとティムリンも来ています。

カプリースの操作でブレッケンの腹部が開かれると、期待に反してそこにはおぞましく醜悪な落書きのような絵の描かれた複数のドロドロとした臓器が詰まっており、観客たちはざわつきます。ショックを受けたラングが会場を飛び出し外で泣き崩れていると、ライフフォーム・ウェアのバーストとルーターがなぐさめるように両側から寄り添います。しかし次の瞬間、彼女たちは手にした電動ドリルをラングの後頭部に突き刺して殺害し、遺体を足蹴にして死亡を確認します。

その後ソールはコープから、ブレッケンの内臓は事前に入れ替えられていたと聞かされます。それを実際に行ったのはティムリンだとコープは言います。コープは、ブレッケンの内臓がどんなものか外部に知られるわけにはいかない、これは大義なのだと語り、ソールが「だからラングも暗殺したのか」と問うと、コープは「暗殺ではない。(単なる)殺人だ」と答えるのでした。

朝。ソールはオーキッドベッドではなく床の上にうずくまっています。彼はベッドのサポートがなくても痛みを感じるようになっていました。カプリースはソールが自分の肉体をコントロールできるようになったことを喜び、ふたりはキスを交わします。

その後、ソールはブレックファーストチェアで流動食を食べようとしますがスプーンを落としてしまいます。するとカプリースは指輪型カメラをはめ、ソールにあの紫色のバーを渡します。もしかしたら死ぬことになるかもしれないその有害物質のバーを、ソールはゆっくりと口にし、カプリースは静かにその姿を撮影していきます。

モノクロの画像の中でソールはおだやかにバーを食し、やがて彼の頬を一筋の涙が流れ落ちます。その顔には、何かを悟ったような満足そうな表情が浮かんでいました。

以上、映画「クライムズ・オブ・ザ・フューチャー」のあらすじと結末でした。

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